場末の総合内科医

学習のアウトプットと研修医教育に関する徒然日誌です。解剖・生理・病態生理を大事にして深みのある学びをしたいと考えています。ときどき毒を吐きますが悪しからず。

【NEJM】MGH Case32-2020

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ゴリゴリのハードコアケース・・・

 

Case

症例は63歳男性。5年前に膜性腎症と診断され経口PSLとCyAを開始。2年後、蛋白尿が悪化しRTX、PSL、CYが開始され、受診の3ヶ月前にRTXの4回目が投与された。

 
同時期(つまり3ヶ月前)に、左の眼球後部と前頭部に一過性の鋭い痛みと閃輝、および左眼の霧視が出現した。頭部MRI、CTは異常なし。生食を点滴し、退院。
 
1週間後、意味不明な発語が10分間あり再受診。頭部MRIで左橋梗塞を認めた。アルテプラーゼを静脈投与。経食道心エコーは正常。軽度の喚語困難(失語)が残存したが退院。
 
退院後、左眼の飛蚊症、頭痛、光過敏、音過敏、倦怠感が悪化してきた。3週間後に神経眼科を受診し、経口バルビタールアセトアミノフェン、カフェイン療法を受け、ぶどう膜炎の疑いでPSL点眼を投与された。視野異常は改善し、頭痛は2週間で軽減した。
 
しかし1週間後、突然の右半身と顔面の筋力低下、しどろもどろの話し方が生じ10分で自然軽快した。頭部MRI、CT、TTEは前回と同様の結果であった。脳波で左側頭葉の局所徐波があり、レベチラセタムが開始された。話し方は2日で改善し、退院。
 
翌週、1分間の凝視発作を繰り返し、微熱が出始め、2日後に39.4℃まで上昇し再び意味不明な発語が見られたので他院に入院となった。血液一般検査、尿検査は正常。ライム病抗体、HBVHCV、梅毒RPR、ANA 、ANCA、補体いずれも正常。髄液検査では、糖39mg/dl、蛋白358mg/dl、細胞数238/dl(リンパ球88%)あり、髄液のボレリア抗体(Borrelis bugdorferi)、ウエストナイル熱抗体、梅毒VDRLは陰性。精査目的で当院へ紹介となった。
 
ーーー この病歴十分おかしいけど、入院まで3ヶ月もかかるのは何故なのか。片頭痛?→脳梗塞片頭痛てんかん? と考えて外来でつないだのか。ぶどう膜炎の精査は外来でされていたのだろうか。分からないことばかり。
 
ーーー とりあえず、細胞性と液性免疫不全者の慢性髄膜炎(単球優位)+/ー ぶどう膜炎 の範疇で考えたらよさそう。
 
ーーー  この中に最終診断はあるかな? 感染症が上位だが現時点では非感染症も十分ありえる。
 
 
 
 
陽性症状:傾眠、倦怠感、全身脱力、落ち着きのなさ、頭痛、凝視発作、飛蚊症、光過敏、音過敏、軽度の項部硬直、6ヶ月で10kg体重減少、夜間頻尿
 
陰性症状:筋痛、関節痛、皮疹、眼痛、複視、口腔内病変、咳、呼吸苦、嘔気、腹痛
 
既往歴:高血圧、脂質異常症PCI後、CABG後、色盲、大腸ポリープ、前立腺肥大
内服薬:シクロホスファミド、レベチラセタム、アスピリン、スタチン、メトプロロール、ロサルタン、サイアザイド、ST合剤、PPI、カルシフェロール、葉酸マルチビタミン、フルチカゾン
社会歴:公務員退職後、イギリス北部に妻と住んでいたが、最近フロリダとカナダの田舎に旅行し狩りをした。喫煙1pac30年、7年前に禁煙。ビール2缶/日。
家族歴:両親は冠動脈疾患、姉は乾癬、兄弟サルコイドーシス。
 
身体所見:眠そうで、見当識はTime, Placeが障害。記名力低下あり。視野が霞んでおり眼球運動が不快に感じ、上転障害あり。筋力低下なし、左手の企図振戦あり、両下肢の筋緊張亢進し、反射の亢進、クローヌスあり。
 
検査:血液一般検査は優位所見なし。中毒の血清スクリーニング陰性。HIV-1,2と梅毒のスクリーニング陰性。血培、尿培も陰性。頭部単純CTは正常。頭部MRIは、両側上顎洞の透過性低下あり、脳溝がFLAIRで高信号、Gd造影でわずかに造影効果あり。白質は異常なし。脊髄MRIは多発の変性があったが、脊髄の異常はなかった。ACV、CTRX、ABPC、VCM、チアミンが開始された。

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ーーー 慢性経過だけど、とりあえず型通り細菌性髄膜炎ヘルペス脳炎の治療は開始しました的な。
 
入院2日目、熱は37.6℃。ミオクローヌス、傾眠、光過敏、意味不明な発言は続いた。ビタミンB12、ACE、CD4+サブセット、ANA、ANCA陰性。血清のクリプトコッカス抗原、EBV-DNA、CMV-DNA、ガラクトマンナン、ボレリア抗体(Borrelia burgdorferi)は陰性。髄液検査を実施。初圧10cmH20、黄色、混濁。蛋白・細胞数の著明な上昇あり(好中球50%、リンパ球25%、単球25%)。脳波は両側後頭葉θ波の徐波はあるが、てんかん波ではない。神経眼科の診察では、視力正常、眼圧正常、RAPD正常。両側の後部硝子体剥離があったが、前房、後房に細胞は認めなかった。屈曲した血管を伴う両側視神経浮腫あり。前部ぶどう膜炎、網膜炎、網膜壊死はなかった。
 
ーーー 途中で好中球優位になった? 両側の硝子体剥離が出てきた。
 
入院3日目、熱は36.7℃。筋力が回復した。バルトネラ抗体、Tropheryma whippleri DNA陰性。電気泳動では全てのγグロブリン(IgG、IgA、IgM)が低下していた。free light chainは正常。髄液のVDRL、クリプトコッカス抗原、東部馬脳炎エンテロウイルスRNA、ウエストナイルRNAHSV-1,2 DNA、VZV DNAは正常。
 
入院4日目。元気になって歩行可能になった。クリオグロブリン、βD glucanは正常。
 
入院5日目、見当識正常で、複雑な動作もできるまでに回復した。髄液のリステリア抗体、EBV-DNA、HHV-6 DNA、血液と尿のヒストプラズマ抗原は陰性。PET-CTで優位所見なし。髄液は透明になり、蛋白と細胞数(リンパ球92%)は依然上昇しているものの、減少していた。神経眼科の診察で、左眼優位に硝子体細胞がたくさんあり、左視神経の浮腫は持続し、暗点も増えていた。眼血管炎の所見はなかった。診断がついた(A diagnosis was made)。
 
ーーー え〜全然分からん。検査が膨大すぎて医療費が気になる。
 
ーーー 髄膜炎ぶどう膜炎を起こす微生物のうち、ACV+CTRX+ABPC+VCMで改善するものは? 
 
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考察がゴリゴリの理詰めで大変勉強になったが、力尽きて訳す元気がないので要点だけまとめる。
 
硝子体に炎症細胞があるということは、ぶどう膜炎の中でも「中間部ぶどう膜炎」を意味する。まとめブログに知恵を拝借すると、ぶどう膜炎を起こす微生物は多岐に渡り、慢性髄膜炎を起こす微生物のほとんどがブドウ膜炎も起こすと考えてよさそうだ。
中間部ぶどう膜炎結核、ライム病、梅毒 が鑑別に挙がる。今回のケースでも梅毒やボレリア抗体Borrelis bugdorferi)は血清と髄液で繰り返し検査されていた。結核についての記載はあんまりなかったな。
 

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髄液のギムザ染色でスピロヘータが確認された。入院2日目の髄液で ボレリアのglpQ遺伝子(ライム病のボレリアは保有しない)のRT-PCRが陽性となり、B.miyamotoiと同定された。血清でもB.miyamotoiに対する抗体(ELISA)が強陽性となり、IgMは陰性であったことから、数ヶ月間 B.miyamotoiに感染していたことが判明した。
 
最終診断は、Borrelia miyamotoi !
 
 
◎ Borrelia miyamotoi
以前 Kutsuna先生がスライドを出しておられたので名前は知っていた。ミヤモトイさん、お久しぶり。