場末の総合内科医

学習のアウトプットと研修医教育に関する徒然日誌です。解剖・生理・病態生理を大事にして深みのある学びをしたいと考えています。ときどき毒を吐きますが悪しからず。

前立腺癌による縦隔リンパ節腫脹

前立腺K終末期の方が誤嚥性肺炎で入院した。終末期って具体的にどこに転移しているの? と上司に聞かれ、骨・大動脈周囲リンパ節・副腎・縦隔リンパ節ですと答えた。縦隔!と驚いた上司は、前立腺Kでときどき縦隔リンパ節が腫れること、ときにウィルヒョウも腫れることを教えてくれた。

前立腺癌による縦隔リンパ節腫脹は極めてまれ

前立腺癌の転移は【骨】と【所属リンパ節】がトップ2である。前立腺静脈叢は脊椎静脈叢(Baston静脈叢)と直接交通しているため骨転移を起こしやすい。所属リンパ節は、閉鎖リンパ節(最初)、内腸骨、外腸骨、仙骨前面、大動脈周囲を指す。

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これ以外の転移巣としては、肺、胸膜、肝臓、胸膜、副腎、横隔膜上リンパ節(縦隔リンパ節・頸部リンパ節)などがある。米国の単施設で620人の前立腺癌の転移巣を調べた研究では、28人(4.5%)に横隔膜上リンパ節腫脹を認めた。これらのほとんどは骨転移を合併していた。
 

f:id:mijinkoland:20201123205615p:plainhttps://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22826398/

 
なんにせよ横隔膜上リンパ節腫脹を伴う前立腺癌は非常にまれなので、それだけで Case Reportになっている。
 
全身リンパ節腫脹で発症した前立腺癌①(2010)
全身リンパ節腫脹で発症した前立腺癌②(2011)
前立腺癌による巨大な縦隔リンパ節・頸部リンパ節腫脹(2013)
 

縦隔リンパ節腫脹の側からみれば

悪性腫瘍としては、肺癌の転移、肺以外の転移、悪性リンパ腫が多い。肺以外の原発には、頭頸部癌、食道癌、甲状腺癌、乳がん、メラノーマ、泌尿生殖器系などがある。

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Thoracic Radiology: The Requisites  e-book  p.352

 
驚くことに、腹腔内・骨盤内リンパ節腫脹を伴わずに縦隔・鎖骨上窩リンパ節腫脹を起こした前立腺癌の報告もある。通常、骨盤内所属リンパ節は乳糜槽→胸管→左鎖骨下静脈と順行性に転移するはずだが、何故か腹腔内・骨盤内リンパ節腫脹に異常がみられず縦隔・鎖骨上窩リンパ節腫脹で発見される前立腺癌が一定存在する。
つまり、縦隔リンパ節腫脹やウィルヒョウリンパ節というと、頸部〜胸部の悪性腫瘍だけを考えがちだが、はるか遠くの前立腺癌の転移としても起こり得ることを覚えておく必要がある。

前立腺癌の罹患率

googleでざっと調べた範囲では2018年までの統計しか見当たらなかったが、2017年のデータだと前立腺癌は【罹患数1位】で死亡数は5位以下である。米国では罹患数1位で死亡数2位となっている。日本ではこの20年で前立腺癌は驚くほど増加しており、2020年は肺癌に次いで2位になる見込みらしい。食生活が欧米化した影響と考えられている。
 

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余談だが、私が国家試験を受けた頃はゴロの本が流行っていて、悪性腫瘍の死亡数の順位(罹患数ではなく)はこんな風に覚えた。
男性「ハイカラダンス(肺胃肝大腸膵)」
女性「ダイハードチカン(大腸胃肺乳肝)」
 
ダイハードチカンって・・・・

ウレアーゼ産生菌と高NH3血症

前回の結石に続いて、ウレアーゼ特集その2。

ウレアーゼ産生菌による高アンモニア血症による意識障害は年に1回くらいある気がする。これに限らず肝硬変以外の高アンモニア血症は割と経験する。

ウレアーゼ産生菌とは

尿路感染症で問題になるウレアーゼ産生菌は以下のとおり。Proteusが代表なのは言うまでもない。

  • Proteus
  • Klebsiella
  • Morganella  morganii
  • Corynebacterium urealyticum

 

尿路感染とウレアーゼ産生菌の研究は1980年代に多かった。日本の論文では、1989年の滋賀医大の研究がよく引用されている。興味深いことに、E.coli のウレアーゼ活性はなんとゼロ。グラム陽性菌も一定のウレアーゼ活性を持つことが分かる。

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/116435/1/35_277.pdf

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尿をアルカリ化する能力を調べると Proteus がダントツで高い。

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ウレアーゼの働き、尿素アンモニア

ヒトがアンモニアを捨てる仕組みは、肝臓と腎臓、腸管を模式的に書くと理解しやすい。アンモニアは肝臓のオルニチン回路尿素回路)で尿素に変換され、尿中に排出される。一部の尿素は腸内細菌のウレアーゼによってNH3とCO2に変わる。便のアンモニアはこうして作られるのだ。

f:id:mijinkoland:20201122205949p:plainhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/jscc1971b/7/4/7_337/_pdf

 

◎ ピロリ菌の尿素呼気試験 

ウレアーゼはむしろピロリ菌の方で有名かもしれない。尿素呼気試験はウレアーゼの働きを臨床応用した検査だ。尿素を分解して生じたCO2を標識して呼気で検出している。ピロリ菌はウレアーゼ産生能があるのでNH3を産生して周囲をアルカリ化することで、胃酸から身を守っている。

f:id:mijinkoland:20201122213525g:plainhttps://minds.jcqhc.or.jp/n/pub/1/pub0009/G0000151/0015

 

ウレアーゼ産生菌は実はすごく多いのだが、尿路感染を起こすものは先に述べた一部の菌を覚えれば十分だと思う。

f:id:mijinkoland:20201122214221p:plainHeticobacter Research vol.8 no.1 2004

 

アンモニア血症の症例報告

本邦の報告は意外にも Corynebacterium urealyticum の報告が多い。Proteus は当たり前すぎるから、わざわざ報告されないのかもしれない。

f:id:mijinkoland:20201120225125p:plainhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/clinicalneurol/57/3/57_cn-001002/_pdf/-char/en

 

ウレアーゼ産生菌の存在+【尿閉】がポイント

日本の報告では、実はほとんどが尿閉を伴っていた。通常、アンモニアは尿中に排泄されるが、尿閉により膀胱内圧が上昇すると、膀胱静脈叢から血中に再吸収されるようになる。門脈を介さず体循環へ直接アンモニアが運ばれるため肝臓での代謝を受けない。

f:id:mijinkoland:20201122210004p:plainhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/108/1/108_100/_article/-char/ja/

尿路結石とウレアーゼ産生菌

Proteus mirabilis の尿路感染を繰り返していて、サンゴ状結石がどんどん大きくなるのでなんとかできないか? 予防的抗菌薬を使おうと思うがどれくらい続けたらよいのか? と相談を受けた。ちなみに ESBL産生株だけど・・・。

 

今まで膨大な数の尿路感染を診てきたが、巨大な結石を伴う腎盂腎炎は泌尿器科が診ることが多いためか、このような悩みを持ったことはなかった。しかし思い直してみると、腎盂腎炎を繰り返す高齢者は一定数いたので、自分がこれまで Proteusの結石性腎盂腎炎について予防の視点を持って診てこなかっただけかもしれない。

尿路結石の復習

尿路結石は大きく5種類に分かれる。
  1. シュウ酸カルシウム結石
  2. リン酸カルシウム結石
  3. 尿酸結石
  4. リン酸マグネシウムアンモニウム結石
  5. シスチン結石

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◎ シュウ酸を多く含む食品
コーヒーを飲みながらチョコレートを食べる私はハイリスクということになる。これからの寒い季節にはココアがぴったりだが、飲み過ぎ注意だ。身体に良くて低カロリーと信じていたほうれん草やレタスはシュウ酸含有量が多いらしく、心が折れた。

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リン酸マグネシウムアンモニウム結石と尿路感染

【リン酸マグネシウムアンモニウム結石】は尿路感染と関連がある。これは「感染結石」とも呼ばれていて、Proteus をはじめとするウレアーゼ産生菌によって尿がアルカリ性に傾くことで、リン酸マグネシウムアンモニウムが結晶化して形成される。
 
細菌は結石の奥深くでバイオフィルムをまとって生き残るので、たとえ抗菌薬を長期で使用したとしても感染結石から細菌が完全に消えることはなく、尿路感染と尿路結石のどちらかが悪化するともう一方も悪化するという隣り合わせの関係にある。結石を伴う尿路感染症が治りにくいのはこのためである。
 

感染結石を予防する方法

Mandell 8th p.3455 によると、脊髄損傷の患者ではウレアーゼ産生菌によるリン酸マグネシウムアンモニウム結石の存在は予防的抗菌薬の適応になるらしい。今回相談を受けた症例は脊損ではないが、下記の5番目にも該当するので予防的に長期抑制療法の適応になるのかなと思う。
 
 
◎ 予防的抗菌薬の例外 [Mandell 8th p.3455、3459、899]
 
尿路結石症診療ガイドライン旧版 には以下のように書いてある。
 
ーーー 感染結石の再発防止には尿の無菌状態の持続が理想的であるが、実際には難治性の尿路感染が背景に存在することが多い。その場合は、尿の無菌状態の維持を目標とする。

リン酸マグネシウムアンモニウム結石は、ウレアーゼをもつ尿素分解菌により尿素からアンモニアが作られ、尿の著明なアルカリ化により形成される結石である。まず結石の完全除去が原則であるが、それと平行して原因菌を同定し、抗生剤投与により尿を無菌的に保つことが再発予防に重要である。

手術不能患者や結石の一部が残存した場合でも、尿の無菌状態においては、結石の再増大が抑制されたり、結石が部分的に溶解するという報告もなされている。また、細菌が完全に消失しなくても、細菌数が107/ml から105/ml に減少することで、ウレアーゼ産生は99%減少すると考えられている

 

ーーー 継続的な治療および経過観察についての一つの考え方として、

  1. 1〜2週間は、尿培養で感受性のある抗生剤を常用量投与する
  2. その後、細菌の消失が確認されれば、その半量を3ヶ月間投与する
  3. 1年間は1ヶ月ごとの尿細菌培養で経過観察し、もし細菌の再出現があれば感受性のある抗生剤を再度常用量投与する、がある。
 

【読了】レジデントのためのスライドのポイント

この本はいい。好きなテイスト。

「うん、うん、その工夫してるしてる」とうなづきながら読んだ。

著者の先生とスライドについて語り合いたい!

何度か発表を経験した後期研修医や指導医にオススメする。30分程度で読める。

 

 

 

【グラ染】MEPM VCMで改善しない肺炎

某科が腹部の感染症に対してMEPM, VCMを使っている。その最中に肺炎が起こり、増悪傾向にある。喀痰培養からはMRSAが発育した。

 

MRSA肺炎だと思うんです。VCMのトラフが低いから良くならないのでしょうか?」とのこと。

 

VCMトラフは長く維持されていたが、確かに肺炎治療開始時点では 8 μg/ml と低くなっていた。

 

トラフ低くてもVCM投与中のMRSA肺炎って、、、と思い喀痰グラム染色を確認した。白血球多数の非常に良い痰で、菌は・・・いない。複数視野で1〜2個くらいMRSAとおぼしきGPCがいる。これはMRSA肺炎ではないだろう。

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某科はMEPM, VCMを継続し、トラフは維持された。数日後のCTでは、一部の陰影は改善していたが、ベタッとした何とも言えぬ新しい浸潤影が出現していた。

 

VCMトラフを維持したことで元の肺炎は改善し、別の微生物による肺炎が起こったということか? そのときのグラム染色は上皮混じりの視野しか得られず参考にならない。培養でもMEPM, VCM無効の菌は分離されなかった。非感染症も考えられる。

 

このままだと挿管になりそうだ、と週末にぼやきながら某科はそのままMEPM, VCMを続けた。そしたら週明けに治った。(O_O)